肌断食や何もスキンケアをしないことは、本当に肌に良いの?

「スキンケアをしない方が、本当は肌にいいのではないですか?」という質問をよくいただきます。

『肌断食』という言葉で代表されるように、化粧品を使わない方が肌に良いという考え方が存在します。
肌断食の方法は、ある一定期間、すべての化粧品を使わないことで、肌を休めることが目的のようです。

なぜ、休める必要があるのかと言うと、「化粧品には防腐剤や添加物、合成成分など、肌にとって負担をかけるものがたくさん配合されており、そういったものを長年使うことで肌にダメージが蓄積される」とのこと。
つまり、化粧品は、肌に負担をかけるからたまに使うのをやめましょうという考え方だそうです。

ここに確かな定義はなく、肌断食を主張している人もさまざまな職種なので、多少の違いはあるかもしれませんが、概ねこのような考え方のようです。

果たして、この考え方は、正しいのでしょうか?

『肌断食』の考え方とは?

私は、この考え方を聞いたとき、「非常に極端な考え方だな~」と思いました。
私だけではなく、化粧品の研究に少しでも携わった経験がある人なら、おそらく誰でもそう思うのではないかと思います。

肌断食の理論は、一見、分かりやすくて、正しいように感じるのですが、よく考えると、非常に画一的なものの見方で、根拠が希薄です。私は、非常に怪しい言葉だと感じます。

でも、肌断食という言葉がここまで広がるということは、本当かどうかよりも分かりやすい方が重視される世の中なのかもしれません。

では、一つずつ分解していきましょう。

『肌断食』がはらむ3つの『?』

1.『化粧品』と、一括りにいっているところが「?」

肌断食は、総じて、「化粧品を使わない」ことです。
ここで言う化粧品とは、メイク用化粧品やスキンケア用化粧品が一緒になっています。
確かに、両方とも化粧品というカテゴリーではあるものの、目的が全く違います

メイク用化粧品は、見た目をキレイに見せることが目的です。
だから、見た目をキレイにする機能(たとえば発色の良さや、落ちにくさなど)に特化しています。
もちろん、安全性を無視している訳ではないですが、多少肌への刺激を犠牲にしている部分も見受けられます。

一方、スキンケア用化粧品は、肌を健やかに保つことが目的です。
主に、肌の異常状態である乾燥を防ぐ保湿効果などを持っています。
うるおいなどが損なわれた肌をケアすることが目的なので、安全性にも重きが置かれます。
機能性も大切ですが、それと同等か、もしくはそれ以上に安全性を重要視される傾向にあります。

このように、メイク用化粧品とスキンケア用化粧品は、全く別物です。
目的が違うので、中身も全く違うので、肌への安全性の基準もぜんぜん違います。

だから、「メイク用化粧品を控えましょう」と言うなら理解できるのですが、「スキンケア用化粧品も含んだ化粧品全部を使わない方が肌に良い」と言われると、「この人は化粧品の基本的なことを知らないのかな?」と、疑わしく感じます。

2.添加物や防腐剤、合成成分が肌に負担をかけるというところが「?」

「添加物や防腐剤、合成成分は肌に悪い」と思っている人は、非常にたくさんいます。

これも大間違いです。
もちろん、機能性を重視した化粧品原料の中には、刺激のあるものもあります。
でも、全部が危険ではありません

そもそも添加物や防腐剤、合成成分は、非常に安定性が高いために原料の選定さえ間違わなければ、非常に安全性の高い化粧品を作ることができます。

この『安定性』の部分は、一般の人にはなかなか理解してもらえない部分です。
化粧品の安定性とは、こちらの思い通りの化粧品の効果や状態を長期間保持することです。
また、化粧品の安全性を高めるためには、必要不可欠な要素です。

例えば、化粧品の安定性は、その作る量でも簡単に損なわれます。
一般的な『手作り化粧品』のように、自分だけで使う量なら安定性に気を配る必要はあまりないです。
でも、これをたくさん作ろうとすると、高い安定性なしに実現は不可能です。

私自身、今まで多くの化粧品の試作を行ってきました。
ビーカーでは、「ものすごく良いものができた!」と喜び勇んで、本番の釜で作ると全然違うモノができる、という経験を何度もしました。

ちなみに、昔、私が使っていた釜の大きさは100㎏程度の小さなものから、300㎏、1トン釜まで様々でした。量が大きくなるほど、失敗の確率も増えます。
1トン釜で失敗したときは、血の気が引きます。
普通に下水道に流すわけにはいかないので、処分するだけでも大変なことになります。

失敗も様々で、ビーカーで作ったときはゲル状なのに、大きな釜で作ると液状になったり、思っていた使用感が無くなったりと多岐に渡ります。
ビーカーと同じように作っているのに、なぜ、量を増やしただけでできないのかが本当に不思議でした。

このように安定性が悪いと商品そのものが完成しません。
でも、このように分かりやすい失敗なら、まだ良いのです。
問題は、気づかれない失敗を抱えたまま商品化される場合もあることです。

その中でも、化粧品の腐敗や変質は、ダイレクトに肌への刺激となります。
安定性が低いと、このようなデメリットが発生するリスクが高まります。
防腐剤を入れない化粧品などもありますが、私には考えられません。
防腐剤を入れないということは、化粧品の腐敗リスクが一気に跳ね上がります

化粧品の安定性と安全性は比例しており、そのために添加物や防腐剤、合成成分が開発されました。
その技術は、日進月歩、この瞬間も進化し続けています。
おかげで、私たちは化粧品をはじめ食品なども安定性の高い安全なものを手に入れることができます。

もちろん、こういった成分を嫌うことは個人の自由です。中には、アレルギー反応を持っている人もいるでしょう。
でも、それは、これら以外の成分でも同じことです。
自然界にあるものでも、私たちの肌に刺激を与えるものは多数あります。

それに、天然成分っぽく見せている化粧品もたくさんあります。
例えば、天然由来成分。
これを『天然成分』だと勘違いしている人がたくさんいます。
正しくは、自然界に存在している成分を科学の力で作った成分です。
だから、言い換えると、『合成成分』です。

また、『オーガニック化粧品』を誤解している人も多いですね。
自然界の天然成分のみで作った化粧品と思っている人がたくさんいますが、すべてがそういう訳ではありません。
オーガニック成分でも、当然、アレルギー反応を起こす方はいます。
だから、『オーガニック化粧品』と銘打っていても、特別安全性が高いわけではありません。

『オーガニック化粧品』という分類は正式には存在せず、それゆえに決まった規定もありません。
それぞれの任意団体がそれぞれの思惑で、「これがオーガニック化粧品の条件だ」と主張しているにすぎません。
今のところは言ったもん勝ち、という残念な状況です。

そういえば、先日、某お笑いタレントさんがこんな話をしていました。
彼は、非常に敏感肌らしく、普通の日焼け止めが合わないようです。
で、「知り合いに勧められたオーガニックの日焼け止め」を実際に使ってみると、顔がパンパンに腫れて、病院にまで行く羽目になったようです。
その時の写真が公開されていましたが、予想以上のアレルギー反応でした。
番組の現場では、その日焼け止めが公開されていましたが、テレビではさすがにNGだったらしくモザイクがかかってました。
やはり、化粧品の合う合わないは、一概には言えないのです。

3.化粧品原料を知らない人が言っているから「?」

肌断食については、さまざまな人が、さまざまな事を主張しています。
決まった規定がないので仕方ないのですが、「肌断食はいい」と主張している人であっても、内容が矛盾したことを言っていることもあります。
また、不思議なことを言っている人もいます。

例えば、とある肌断食を勧める人の話を聞くと・・・ 「化粧品は安全性に問題がある。なぜなら、いろんな刺激のあるものが配合されているから。添加物、防腐剤、合成成分はだめだ。だから、化粧品から卒業しましょう。」

でも、途中で、「ワセリンは良い」と言い出しました。
確かに、ワセリンは化粧品ではありません。
でも、化粧品にも使われる原料です。
今まで、さんざん化粧品の原料は肌に悪いと言っていたのに・・・?

しかも、ワセリンは石油から抽出した炭化水素類の混合物を脱色して精製したものです。
石油系の成分って、こういった人が一番嫌いそうに思うんですけどね。
ワセリンだけは別格なのでしょうか?不思議です。

他にも本やブログなど読んでみましたが、このように、一貫しない主張が多いな、と感じます。

肌断食を行う最良の条件

ここまで読むと、私が肌断食を否定しているようなイメージを抱かれるかもしれません。
私は、肌断食を否定してはいません。
ただ、「肌断食は肌にいい」と言っている人を、「怪しい」と思っているだけです。

確かに、メイク用化粧品やスキンケア用化粧品を使わないで、肌を健康に保つことができたら、言うことありません。
無駄なお金や時間もかからず、非常にメリットがあります。

なので、肌断食を行う上で、最良の条件を考えてみました。

条件1
空気のキレイなところで肌断食を行う

空気中に浮遊するゴミは、肌にとって刺激になります。
たばこの煙や排気ガスなんかもそうです。
スキンケアを行わないということは、肌が無防備な状態です。
そんな状態で、こういったものに触れてしまうと肌トラブルの原因になります。
だから、空気のきれいな田舎に行けばいいかもしれません。

ただ、田舎にも注意することがあります。
それは、花粉です。
私は、スギやヒノキの花粉アレルギーがあるため、花粉が肌に付着するとアレルギー反応を引き起こします。
赤くなってかゆくなります。
また、花粉も肌にとっては異物です。
だから、花粉の飛んでいない田舎を探すしかありません。(そんな場所あるのかな・・・?)

きれいな空気に満たされた環境を一番手っ取り早く作る方法は、空気清浄機をガンガン回した部屋にいることでしょうね。
外に出なければ、問題ありません。

条件2
紫外線を浴びずに肌断食を行う

肌の老化の最大要因である紫外線。
メイクも日焼け止めもしなければ、その悪影響をモロに受けます。
また、スキンケアも行わないので、回復が遅れます。
そのため、徹底的に紫外線を避けるしかありません。

日傘や帽子などで防ぐしかないのですが、太陽光は壁や地面に反射するので、完全に遮断することは不可能です。
だから、外出は止めましょう。
家の中でじっとしているしかありません。
家の中でも窓付近は危険です。
ガラスを通して紫外線が降り注ぐので、窓付近には近づかないようにしましょう。
もしくは、紫外線カット率100%のフイルムを貼るといいでしょう。

条件3
自分の皮脂の分泌量を把握する

私たちの肌を守る皮脂。
でも、過剰に分泌された皮脂は、ニキビや皮脂詰まりなど、肌トラブルの原因になります。
そのため、洗顔料を使ってきれいに落とします。

肌断食の場合、スキンケアを行わないので、必然的に洗顔料も使いません。
水、もしくは、ぬるま湯で洗うだけです。
空気中のごみが肌に付着した程度であれば、水でもある程度落ちます。
でも、皮脂は油なので水とは相性が悪く、落ちにくいです。
そのため、洗顔をする際は、ぬるま湯で行うことになります。

しかし、皮脂の落とし過ぎには注意が必要です。
皮脂には、肌中の水分を維持する働きがあります。
いわゆる保湿効果です。
皮脂がないと肌は乾燥してしまいます。

スキンケアを行っていれば、たとえ洗顔で皮脂を落とし過ぎても、その後に化粧水・乳液・保湿クリームなどで、乾燥を防ぎます。
でも、肌断食の場合は、このようなスキンケアを行いません。
もし、お湯洗顔によって皮脂を落とし過ぎると、その状態を放置するしかなく、必要な皮脂が分泌されるまで肌は無防備になり、過乾燥が起きます。
過乾燥は肌トラブルの元なので、避けなければなりません。

だから、自分の皮脂の量を完全に把握して、皮脂を落とし過ぎないぬるま湯洗顔を行ってください。
もし、皮脂を取り過ぎしてしまうとリカバリーする方法がありません。
特に、皮脂の分泌が少ない、乾燥肌や敏感肌の女性は要注意です。

また、ぬるま湯洗顔は、洗顔料を使う場合に比べて、肌への摩擦が大きくなります。
もちろん、そのような行為は肌への刺激となり、肌トラブルの原因になります。
細心の注意を払いながら、やさしいタッチで洗いましょう。

まとめ
結局、肌断食よりプチ肌断食がおすすめ!

こう考えると、肌断食をするためには、空気清浄機をガンガンに稼働させて、家にこもる必要があるようです。
こういった環境が容易に手に入る方は、肌断食を行ってもいいと思います。

でも、通常の日常生活を送っている方には、お勧めできません。
肌断食をすることで逆に、肌は無防備になり、日常生活の刺激とストレスによって肌トラブルを招いてしまう可能性があります。
このことから、肌断食は日常生活を行う上であまりメリットがないように思います。

ただ、不要なスキンケア(美容液とか栄養クリームなどたくさん使うこと)や、メイク用化粧品を控えることは肌への刺激を軽減することにつながります。
だから、完全に化粧品を絶つ『肌断食』ではなく、一部の不必要な化粧品を使わないというような、いわゆる『プチ肌断食』程度なら肌に優しいと言えます。

私見ですが、「肌断食」は何らかの意図をもって無理やり作られて広められている言葉だと思います。
まぁ~、こういった意味のない言葉を目立たせることで利益を得る人や企業があるのでしょう。
残念ながら化粧品業界ではよくあることです。
流行や言葉だけに流されずに、その背景や効果など、全体を見るようにすると、また違った視点に気づくかもしれません。
肌断食を検討されている方に、この記事が参考になれば幸いです。

更新日:2017.11.22投稿日:2015.11.26

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アースケア代表・化粧品開発者

井上龍弥

2000年アースケアを創業。保湿に特化したアクシリオの開発・販売を手掛ける。起業家ならではの人生観や自身の超がつく敏感肌・乾燥肌の経験談が愛用者に人気。

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