DHC訴訟から見る化粧品業界

去年の夏に始まった一つの訴訟に、私は注目していました。

概要は以下の通りです。

みんなの党(解党)の渡辺喜美代表に化粧品会社大手DHCの吉田嘉明会長が計8億円を個人的に貸していたことについて、弁護士の折本和司氏が「政治とカネ」というブログ記事を書きました。 そのブログ内容が名誉棄損だということで吉田会長が2,000万円の損害賠償を起こしたのです。(引用元:『DHC吉田会長が名誉毀損訴訟で全面敗訴ーーそれでもマスコミが報じない“言論弾圧”より』)

8億円という大金を個人でポンッと貸すということは、すごいインパクトがあったことと、化粧品業界も少なからず関わっていることから、裁判の行方を追っていました。

それが2015年1月15日に結審しました。

SLAPP(スラップ)とは?

DHCの吉田会長は、折本弁護士以外にも10件の訴訟を起こしており、今回が最初の判決です。結果、吉田会長の全面敗訴になりました。

この一連の裁判の注目すべき点は、吉田会長が、ブログやツイッター、雑誌記事などでこの問題を取り上げた書き手や出版社を相次いで提訴している点です。この行為が言論の自由を威嚇する行為になりうるとのこと。実際に、そのうちの1社は訴訟を起こされた後、記事を取り下げています。

判決後の記者会見で、折本弁護士の代理人弁護団の小島周一弁護団長は、次のように述べた。「反論があるなら言論をもってすればよい。この裁判で、吉田会長側は証人尋問の請求すらしなかった。名誉毀損や損害を認めてもらうための裁判ではなく、批判的な言論を封じるためのものとして裁判を使っていることは明らか。実際、この裁判が起こされた後、DHCからブログの削除を求められ、名誉毀損には当たらないと思いながらも、やむなく応じた人もいる」

本来の裁判の目的ではなく、大企業などの優越者が立場の弱い相手を恫喝・発言封じする目的で行われる裁判は、SLAPP(恫喝訴訟)と呼ばれます。もちろん、裁判を起こす権利は誰にでもありますが、巨額のお金を自由にできる立場の人が訴訟を使って不利益な言論を封じ込めようとする行為は、自由な言論に対する威嚇になり得る、というのが被告側の主張でした。判決から見ると、この主張が全面的に認められたと言えます。

そもそも吉田会長は、8億円貸したことを自分で週刊誌に暴露しました。吉田会長にとって8億円は大した金額じゃないかもしれませんが、我々一般人にとっては一生縁のない大金です。

こんな金額を『個人的に』貸している人をこれまで見たことがありません。しかし、ビジネスにおいては、融資や投資などで数億円規模が動くことはあります。だから、利害がからむビジネスの一環だと解釈され、ブログなどで色々と意見を言われるのは当然のことではないでしょうか。

今回は特に、お金を貸した相手が政治家だったこともあり、吉田会長にとって不愉快な意見が出ることは容易に想像できるでしょう。ここまで大きい会社を作った人だから、この程度のことは歯牙にもかけないと思っていましたが・・・。

こんなこと繰り返していると、どんどんドツボにはまり、企業イメージも悪くなってしまいます。ついでに健康食品や化粧品業界のイメージも悪くなりますから、控えて欲しいものです。

なぜ、メディアは、今回の訴訟を取り上げないのか?

8億という多額の貸し付け、訴訟の全面敗訴、SLAPPと話題満載ですが、メディアでは大して取り上げられません。SLAPPなんて言論の自由にかかわることですから、メディアにとって非常に親和性の高い問題です。こういった問題こそメディアが広く世間に広めるべきです。

でも、大手化粧品会社はメディアにとって『超上客』なので、不利なことはほとんど取り上げません。下手にジャーナリズムに火がついて上客に不利益な公表をしようものなら、大きな収入源であるCM広告を出してもらえませんし・・・。

わざわざ折本弁護士と弁護団が記者会見まで開いて知らせたのに、今回の判決を報じたマスメディアは皆無。特定秘密保護法の制定過程では、言論の自由の問題として批判的な論陣を張った朝日新聞、毎日新聞、東京新聞も、一行も報じなかった。

と、記事中でも書かれている通り、取り上げたマスメディアは実際になかったようです。そもそも参照しているこのネット上の記事も、判決に関するニュースではなく、「それでもマスコミが報じない“言論弾圧”」というサブタイトル通り、問題定義の記事ですし。

だから、今回の裁判に関する記事を取り上げたのも、大手化粧品会社と関係のないネット上のメディアだけのようです。もしくは、私のような個人ブログぐらいですかね。非常に小規模ですが、昔に比べればネット上で記録として残るだけでも状況が良くなったのかもしれません。

大手メディアは、今のような利害関係を重視するやり方で、これからもこういった姿勢を続けるのでしょうか。

テレビ番組や大手の雑誌なんかの美容法なんかを見ていても、明らかにおかしいものがあります。「なんで、こんな極端な内容を公表するのかな~」と思うことも多いのですが、たぶん、広告の一種なんでしょうね。

こんなこと続けていると、メディアも美容業界もどんどん信頼性を失ってしまうのではないでしょうか。私自身はテレビで言われているような美容やスキンケア情報なんて、ほとんど信じていません。それよりも、現場で日夜研究開発している人たちと交換した情報の方が、よほど信じることができますから。

メディアと言えども収益を得る必要があるのは分かります。また、すべてのメディア関係者が問題あるわけではありません。実際に、ニュースになったからこそ、今回の判決結果を私も知ったわけですし。今回のように、メディアにとって不都合であっても、我々にとって必要な情報であるなら、多少の不利益があっても取り上げて、真実を広く知らしめてくれることを願います。私自身も微力ながら、引き続き、自分の知る情報はどんどん出していきたいと思います。

投稿日:2015.02.01

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アースケア代表・化粧品開発者

井上龍弥

2000年アースケアを創業。保湿に特化したアクシリオの開発・販売を手掛ける。起業家ならではの人生観や自身の超がつく敏感肌・乾燥肌の経験談が愛用者に人気。

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