WELQ問題から見る、自分の答えの見つけ方

インターネットが一般的に使われるようになり、約20年。Googleのような大手企業が、『検索エンジン』を開発してくれたおかげで、おおよそのことは簡単に調べることができるようになりました。

今までは、専門書や研究者に聞かないと分からなかったことが、少しキーボードを叩くだけで知ることができるようになったのです。画期的です。

「知らないことは、インターネットで簡単に調べることができる」そんな中で生まれた言葉が、『ググレカス』です。

『ググレカス』とは、ネット上の掲示板やチャットで、調べればすぐに分かるような質問に対する決まり文句です。「その程度の簡単な質問なら、わざわざ人に聞かずに、自分でグーグル検索を使って調べろよ。カス。」ということです。

言われ方は、決していい気分ではありませんし、かなり問題のある言い回しですが、それほど、インターネットで調べること及びその有用性が一般的になった結果と言えます。その証拠に、2008年版の『現代用語の基礎知識』にも新規掲載されました。

それが今では、『ググってもカス』と言われるようになってきました。これは、「検索しても、カスのような情報しか出てこない」という意味です。わずか数年で、検索結果に出てくる情報は、有効なものからカスに代わってしまいました。

では、インターネット上に有用な情報は消えてしまったのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。今でも、「えっ、こんなすごい情報をタダで教えてくれるの?」「こんな分かりやすく丁寧に教えてくれるの?」と思わず、書いた人に感謝したくなる黄金にも勝る情報も存在します。

では、どうすれば、カスのような情報を排除して、黄金にも勝る情報を手に入れることができるのでしょうか?

インターネットで情報を発信している身として、非常に大切なことなのであなたにお伝えしたいと思います。

その前に、まずは、『ググレカス』から『ググってもカス』に変化した経緯を知る必要があります。そのためのいい教材である『WELQ(ウェルク)問題』と、その後に出てきた『ヘルスケア大学問題』を紐解いていきましょう。

キュレーションサイトとは

『WELQ(ウェルク)』は、DeNAが運営するキュレーションサイトです。

キュレーションサイトとは、インターネット上から有益な情報を集めてまとめたり、個々の情報をつなぎ合わせることでできた、価値の高い情報を掲載するサイトのことを言います。もともとの語源は、『キュレーター』から来ており、その意味は博物館や美術館で研究・収集・展示・保存・管理などを行う人のことです。

ですから、キュレーションサイトの役割を簡単に言えば、その道の専門家が、難しく面倒な専門的な情報を、分かりやすく簡単に理解できるように手伝ってくれることと言えます。

特に、インターネット上には圧倒的な量の情報が氾濫しており、その内容もピンキリで玉石混合です。そのため、こういった役割は、一般の人にとって非常に重宝されます。

ましてや、それを行うのがプロ野球の球団を持つ一部上場企業DeNAです。安心感抜群です!と思ってたら、実は滅茶苦茶だった、というのがこの『WELQ問題』です。

信用を失ったネット情報

先ほども言いましたが、『WELQ』は、医療系の情報がメインです。だから、医療系の情報の精査は、ふつうの情報と比べても、慎重に慎重を期する必要があります。もし、間違った情報を信じてしまったら、命にかかわりますから。

だから、その分野の専門医師に、しっかりと監修をしてもらうのが義務です。でも、実際は、医師どころか、誰も内容のチェックをしていなかった、というから驚きです。

それどころか、書いているのは学生などのバイト。医学知識の無いズブの素人が、一文字0.5円という格安の賃金で記事を大量生産していたそうです。

そんな賃金ではもちろん誰もオリジナルの記事なんて作ってくれません。だから、他のサイトから画像や記事をパクって、それを掲載していたというのです。しかも、パクりがバレにくい方法をまとめて、マニュアルまで作っていたのです。これはもう確信犯です。

もちろんこうしたパクリは、ネット業界ではタブーです。だから業界内では、ずいぶん前から問題視されていました。

これまでもパクられた人がDeNAに苦情を申し出ていたのですが、「うち(DeNA)はキュレーションサイトを運営しているだけで、記事の内容まで責任は持てません。記事を書いたライターに直接言ってください。」という最悪な対応でした。

で、いざふたを開けてみると、格安で集めたライターにパクりマニュアルを渡して、記事を大量生産していたというからあきれます。つまり、記事の責任はDeNAにあると言えます。盗みを奨励しつつ、それを隠して、ライターや読者に責任転嫁する企業姿勢に非難が集まりました。

サイト閉鎖が続出

結果、その悪事がバレて、ついにサイト閉鎖に至りました。これが2016年12月の話です。

DeNAは、他にも9つのキュレーションサイトを運営していました。記事の一部削除をしたりとモタモタして、その後、最終的には8つは閉鎖し、1つは6割程度の記事を削除して継続。つまり、それだけ盗用や虚偽の記事が多かったということです。どうせなら、問題になった時にすぐに完全閉鎖した方が潔かったのに。

その後、あのリクルートの系列会社も著作権の侵害、つまりパクリがあったとして、『アニプラ』、『調整さんメディア』、『kulture』、『RecCafe』などのサイトを閉鎖しました。

他にも、yahooの『トリル』、サイバーエージェントの『スポットライト』なども同様に。こんな日本を代表する大きな会社がパクリをするとは本当に驚きです。

やっぱり上場してると株主から「もっと配当上げろ~」と突き上げられて、悪事に手を染めてしまいたくなるのか…これも一部上場、大企業という大きな力を手に入れた代償なのかもしれませんね。

第2のWELQが出現?

WELQが閉鎖されて、その後釜にすっぽりと収まったとされるのが『ヘルスケア大学』という健康情報サイトです。そのウリは、『5,231名の医師が医療に関する記事を監修』というように、医師の信頼性を前面に押し出した展開です。

『5,000名を超える医師』という謳い文句の中身を見ると、2,000名程度が歯科医。医師は『医師法』、歯科医師は『歯科医師法』というように、国家試験も別だから、厳密に言うと、歯科医は医師とは違うと思うんですけどね。

そして、2,000名も歯科医がいるのに、歯に関する記事数は176記事程度しか無く…1つの記事を11名の歯科医が監修している計算になります。不思議ですね。

さて、このサイトの情報も、「WELQと同様に、嘘やパクリが多い」「監修したとされる医師が、自分は監修していないと言い出した」などが明るみになりました。これらが、『ヘルスケア大学問題』です。

実際のところ、この「ヘルスケア大学」や「スキンケア大学」については、WELQ問題が起きていた昨年暮れにも問題は指摘されており、WELQのようなクラウドソーシングを使った問題記事量産の仕組みではなさそうなものの品質の低さには定評があったことが分かります。(引用元:『健康情報サイトの闇 「ヘルスケア大学」であの「WELQ」を越えるトンデモ案件発覚か?』/Yahooニュース)

ちなみに、医師登録者数は現在1,481名となっています。騒動以降、だいぶ減ってしまいましたね。

当時から、「これ本当に医師が監修しているの?」「もし、監修しているなら、その医師が責任取らないとだめだけど大丈夫?」と頭の中に?が溢れるようなものが多く、それがまた検索上位に表示されてくるため、私は検索しづらさを感じていました。

詳しくは、『ヘルスケア大学 トンデモ記事』で検索してください。多くの医師からの指摘もあり、特にひどい記事は削除されてしまいましたが。

公式発表によると、WELQのようにサイトを閉鎖するでもなく、ちょこちょこと修正を入れたり、医師名を匿名にしたり、という作業をするそうです。

弊社が運営するメディア(主にヘルスケア大学)は、4月下旬より医師の個人ブログ等やその複数のSNS等で指摘を受けており、その指摘がソーシャルメディアや他社運営メディア上のニュースにて取り上げられております。(中略)本書面にてご報告いたします。(引用元:『ヘルスケア大学に対するWebメディア上での疑義に関するご報告と今後の取り組み』/リッチメディア)

どうやら嘘の記事を監修した医師は責任を取らないそうです。それまで監修した医師の実名が掲載されていても、トンデモ記事だと発覚したとたん、匿名に代わっていました。

公式発表を見ると、『医師の実業への影響を鑑みて匿名にする』ってことは、記事に対して医師が責任取らないって言ってるのと同義です。責任を取らないなら、監修していることにならないと思うのですが…。

ヘルスケア大学が教えてくれたこと

そもそも、トンデモ記事なのに信頼される理由は、『医師の監修』です。でも、医師は記事の責任を取らないので、監修とは言えません。実情は、名義貸しです。

とはいえ、一定の権威をもっている職業です。知らなかったでは済まないし、勝手に使われたなら、法的手段をとるべきです。でも、そういった動きは一切ありません。

もともと、このヘルスケア大学問題は一人の医師が問題を指摘し、拡散されたことが始まりでした。

私が先日から数回に渡って医師が監修するヘルスケア情報サイト、とのキャッチフレーズを使用している「ヘルスケア大学」「スキンケア大学」(リッチメディアという会社が経営運営)の医学情報の間違いを指摘してきた大きな理由は、間違った医学情報を鵜呑みにした読者がそのうち健康被害を受ける可能性があるからです(引用元:『ヘルスケア大学さま、走りながら間違いを訂正するのは、かなり厳しいかと。』/五本木クリニック院長ブログ)

こうして、「誤った情報で被害者が出る前になんとかしたい」と、動いてくれている医師がいてくれる一方、その権威を利用されることに対して無頓着な医師もいたり、ちょっとした小遣い稼ぎ感覚の人がいたりすることで、悪用されることが多々あります。

これは、化粧品業界でも同じで有名大学出身医師の名義貸しなんて横行してます。ドクターと名前の付く化粧品が多いことも権威の効果が証明されています。

日本人は、特に権威に弱いのですが、もはや権威に価値はありません。むしろ、権威を前面に押し出してくる情報は怪しんだほうがいいでしょう。このような情報は『カス』の確率が高いです。

虚偽だった『水素水』

サイトだけでなく、商品にも『カス』があります。『水素水』がいい例です。「販売元等のホームページや直販サイト、商品のパッケージに、飲用により健康保持増進効果等があると受け取れる記載がある」として、表示の改善を指導するように、国民生活センターより要望が出されました。

詳細は記事にしています。『ウソがばれた水素水を、引き続きウソをついて売る理由

「活性酸素を除去して老化を防ぐ」とか「病気を治す」など、まるで薬のような効果があるように宣伝されている商品もありましたが、それは全部ウソでした。おかげで『水素水』の正体は、『ただの水』であることが広く知られるようになりました。

ただ、問題は別のところにあります。『水素水がただの水であるという事実』は、ずいぶん前から分かっていたことで、私でも知っているぐらいなので、販売している会社なら絶対に認識していたはずです。

にもかかわらず、誰もが知っている大企業も販売していました。一例をあげると・・・伊藤園、中京医薬品、コナミ、メロディアン、パナソニック、シャープ、ライザップ、東急ハンズ、大手テレビ通販全般など。

今までは、大きな力には一定の信用がありました。中小企業よりも、一部上場企業の方が信用力がありました。無名な人よりも、有名人が信用されました。でも、インターネットの出現によって、それが偽りであることが露呈しました。

選択肢の多さが豊かさに繋がる

私たちは、大きいから、有名だから信用できるという、よく考えれば何の因果関係もないことを信じていただけだったのです。

さて、こうなってくると、私たちは一体、何を信じればいいのでしょうか? 困ったとき、誰に聞けばいいのでしょうか?残念ながら、明快な答えはありません。簡単な解決法もありません。

とは言え、有効な情報を得ることは私たちの人生の豊かさに直結します。『水素水』を『ただの水』だと知らずに、高いお金を支払い続けるのはあまりに不幸です。

そこで、僭越ながら私が心掛けていることをお話ししたいと思います。

私も超ウルトラ無名で小規模ですが、情報発信をしています。だから、情報の正確さには細心の注意を払っています。

その中で、正しい情報を見極めるために、もっとも必要な要素は『心構え』です。間違った情報を信じてしまう人の多くは、情報に『答え』を求めるのです。でも、私は情報に答えを求めません。私が情報に求めるものは、ただの『選択肢』です。

例えば、乾燥肌に悩んでいるとします。多くの人は、乾燥肌を改善する方法、つまり、答えを求めます。「鵜呑みにする」とも言い換えられますね。

だから、書いてある通り、言われるがままに試したり、信じたいことだけを信じます。それで結果が良ければいいのですが、ダメだった場合も変わらずに同じ要領で、次に信じたい情報を探してしまいます。こうして、永遠に乾燥肌改善法を探し続けます。

『答え』を求める場合は、その責任を相手に求めるため、非常に楽です。特に、よく分からない分野や新しいことを調べるときは、この傾向が強くなりがちです。

信用できる人を見つけること

一方、『選択肢』を求める場合は、複数の情報を集めることが前提です。

選択肢は多ければ多いほどいいので、まず、たくさん集めます。私の場合、最低、3個は集めます。知識が乏しい場合は、10個ほど集めます。そのため、この段階である程度の知識を得ることができます。

次に、集めた情報の中で『優先順位』を決めます。決めるためには、判断基準となる知識が必要になりますし、試行錯誤をする必要が出てきます。

また、複数集めた情報の中で、共通する部分も参考に、情報の精度を上げていきます。そして、優先順位の高いものから順番に試していきます。試しながら、引き続き情報収集も行います。

試す過程の中で得た知識や経験によって、随時、優先順位は入れ替わります。この柔軟さのおかげで、うまくいく確率が上がり、望んでいた答えに到達するスピードが上がりました。

『答え』と『選択肢』の違い、お分かりいただけたでしょうか?

一見すると、同じように見えるのですが、行動や結果がぜんぜん違います。

正直言うと、『選択肢』の方がかなり面倒です。でも、正しい情報から、答えを得るには最短の方法だと思います。名付けて、『急がば回れ戦法』です。そのままですね…。

とは言え、少しは楽をしたいというのが人間です。時間も有限です。私も面倒は嫌いなダメ人間です。

そこで、私が実践している簡単に正しい情報を集めて、最速で答えにたどり着く方法をお教えします。それは、ズバリ『信用できる人』を見つけることです。

先ほどの面倒な『急がば回れ戦法』を行っていると、最終的にたどり着いた答えと近い情報を発信している人と出会えることがあります。そういった人を見つけた場合、しっかりと覚えておきます。

私の場合は、『お気に入り(ブックマーク)』に入れておきます。そして、時間があるときに、その人について情報を集めます。ブログやツイッター、フェイスブックをしていれば、すべての記事に目を通します。著書があれば読みます。 その中で、情報のつじつまが合っているか?話していることに一貫性があるか?情報が間違っていた際に、非を認めるか? などを精査します。

その結果、情報が正しく、なおかつ、人として考え方や行動が正しければ、その人を信用します。そして、次からは、その人の情報メインで集めます。そうすることで、一気に面倒が無くなります。

自分でキュレーターを見つけるわけです。

もちろん、信用できる人に出会うまでに『急がば回れ戦法』を行った後に、その人の情報を集めるので非常に手間がかかるのですが、長い目で見れば非常に楽です。ぜひ、あなたもお試しください。

ちなみに、私自身、自分の作った化粧品を使ってくれている人たちにとって『信用できるキュレーター』になれるよう精進中です。 大きな力を求めず、知名度も求めず、権威も求めず、やっていこうと考えています。

投稿日:2017.07.26

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アースケア代表・化粧品開発者

井上龍弥

2000年アースケアを創業。保湿に特化したアクシリオの開発・販売を手掛ける。起業家ならではの人生観や自身の超がつく敏感肌・乾燥肌の経験談が愛用者に人気。

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