『DHC アスタキサンチン化粧品』が差し止め要求された4つの理由

2014年9月22日、2014年3月にDHCが発売したスキンケア化粧品『DHCアスタキサンチンシリーズ』の2つの商品が、富士フイルムから「特許を侵害する」として、商品の製造と販売の差し止め要求が行なわれました。

侵害された特許は、配合に関する部分らしいのですが、今のところ詳しくは明かされていません。

アスタキサンチンを化粧品の原料として世に知らしめたのは、富士フイルムのスキンケア化粧品『アスタリフト』でしょう。

発売当初は、自社通販と直販2店舗で、細々と販売していました。細々といっても、初年度で10億円売り上げていますが。

その後、テレビCMに松田聖子さん、小泉今日子さん、中島みゆきさんなど、超ビッグなタレントをCMに起用。

さすがに大資本は、やることが違います。

とにかく有名人を使って、テレビCMをはじめ雑誌やインターネット上に広告を打ちまくりました。あなたもあの赤い容器と赤いイメージの広告を、何度か見たことがあるではないでしょうか。

その結果、2007年には、発売してわずか4年で売上高100億円を突破。翌年の2012年には、135億円と順調に推移しています。

2013年には、アスタリフトの取扱店が7000店に増加して、売り上げはさらに増加しています。

こうなると、他の化粧品メーカーが指をくわえて見ている訳がありません。

富士フイルムがアスタキサンチンを独占している訳ではないので、どんどん類似品のスキンケア化粧品が発売されました。

先ほど『ケンコーコム』で検索をしてみたところ、類似商品が130種類ほどありました。

アスタキサンチンをゴリゴリ前面に押し出しているものから、「とりあえず流行っているから配合しておくか」程度のものまでいろいろです。

化粧品業界では売れた化粧品を真似することは、ある意味、日常的です。だから、私は今回のニュースを聞いて、不思議でした。特許侵害があったとは言え、なぜ富士フイルムがわざわざDHCに差し止め請求を行ったのか?ちょっと検索しただけで、130種類もの類似商品があるのに。

そこで、今回は、化粧品業界に身を置くものとして、その理由をちょっと想像してみました。

差し止め要求の理由その1
売り方が似ている

富士フイルムのアスタリフトの販売網は、通販・インターネット・実店舗7000店。
DHCのアスタキサンチンシリーズの販売網は、通販・インターネット・実店舗。
全く同じですが、実店舗数はDHCに軍配が上がります。

直営店206店舗(2014年9月現在)に加えて、全国のドラッグストア・コンビニ・スーパーなどがDHC商品を取り扱っています。

テレビCMや雑誌の広告は、双方とも良い戦いができそうですが、実店舗数は圧倒的にDHCの勝ちでしょう。
ここは歴史の違いですね。

いくら富士フイルムが大きな会社でも、実店舗の販売網はそう簡単に覆せないでしょう。

CMも有名タレント?の叶美香さんを使って、最後のコメントに、「もう他の赤には戻れない」とチクリ
完全にアスタリフトをマークしていますね。

ここまでアスタキサンチンをテレビCMで全面的に打ち出した化粧品メーカーは、過去にありませんでした。

差し止め要求の理由その2
見た目が似ている

富士フイルムの『アスタリフト』と、DHCの『アスタキサンチンシリーズ』を比べて見ると、外見が似てますね。

アスタリフトの方が高級感がありますが、3メートル離れたら、見分けが困難です。

アスタキサンチンが配合されている類似品も、パッケージや容器はアスタリフトと同じく、赤っぽい濃いオレンジ色でしたが、その程度です。

アスタリフトと似ているものもほんの少しありましたが、ほとんどは3m離れていても分かるだけの違いがあります。

DHCのアスタキサンチンシリーズがここまで似ていると、CMを見ておぼろげな記憶を元にアスタリフトを買おうと思っていた人は、間違ってしまいそうです。

差し止め要求の理由その3
『DHCアスタキサンチン』というネーミングが秀逸

先行して、アスタキサンチン化粧品を発売した富士フィルムの商品名は、『アスタリフト』。

後発のDHCの商品名は、そのままズバリの『アスタキサンチンシリーズ』。

どっちがアスタキサンチンを強くイメージするかと言えば、もちろん後者でしょう。

そのままですが、非常に分かりやすいですよね。

では、富士フイルムは、なぜわざわざオリジナルの商品名を付けたのでしょうか?

その理由は、おそらく、オリジナル商品名の方が他社にマネされることなく、無用な混乱を防ぐことができるからでしょう。

『アスタキサンチン』は、一般名称のため誰でも使えます。

わざわざ商標をとる手間も、費用もいりません。

でも、誰でも使えるので、よく似た名称のアスタキサンチン化粧品が大量に出回る可能性があります。

こうなるとブランド価値を形成することも非常に困難になります。

だから、通常は誰も使っていないオリジナルの商品名を付けます。

これまで富士フイルムは、アスタキサンチンを広めるために、コストと時間を使ってきました。

本当は、自社のスキンケア化粧品である『アスタリフト』という名前を広めたいところですが、それだと露骨に広告っぽくなってしまうので反応が落ちます。

だから、アスタリフト最大の売りである『アスタキサンチン』をガンガン宣伝してきたのです。ここ数年、テレビ番組や雑誌などが、大量にアスタキサンチンを紹介してきました。

こういったことは自然発生しません。特に最初は、膨大なコストと時間が必要になります。

つまり、あたかも自然発生的にブームになっているようなことは、すべて仕掛けられているのです。

ある程度、有名になると、後は自然と広まっていくのですが、そこまで持っていくのが至難の業です。無名なものを有名にするのは、大変なんです。

その甲斐あって、「アスタキサンチン化粧品と言えば、アスタリフト」というブランドが成立しました。

一方、DHCは、『分かりやすさ』を重視しているようです。後発なので、富士フィルムと同じ戦略を行ってもうまくいきません。だから、違う道を選んだのでしょう。

DHCのアスタキサンチンシリーズの出現によって、かなり旨みを持っていかれています。

googleで『アスタキサンチン 化粧品』と検索すると、上位はDHCのアスタキサンチンシリーズが独占しています。たぶん、店舗でも同じ現象が起きているでしょう。

「分かりやすさって大事なんだな~」とつくづく感じます。

また、『アスタキサンチンというネーミングの分かりやすさ』は、DHCの強い販売網も武器になります。

一般名称のデメリットである、「同じ名前のアスタキサンチン化粧品」を仮に他社が販売したとしても、露出度が違います。

圧倒的な販売網があるために、断然DHCが有利です。

そういった意味では、DHCに勝てる化粧品メーカーは超大手の数社に限られます。

さらに、この後に書きますが価格優位性もあります。

このように、今回DHCは、自社のメリットを最大限に活かすネーミングをしたということです。

差し止め要求の理由その4
容量と価格設定が秀逸

「売り方や見た目が似ているなら、お互い間違う可能性があるから、同じゃないの?」

と言われそうですが、もちろん後発のDHCに抜かりはありません。

あなたは、似ている商品が並んでいて、「ん~、どっちだったかな~」と迷った時、どうしますか?

私は、お得な方を選びます。具体的には、容量が多かったり、価格が安いほうです。

ここで、アスタリフトとアスタキサンチンシリーズの容量と価格を比べてみましょう。

例えばローションだと・・・

  • 富士フイルム アスタリフトローション150ml 3,800円
  • DHC アスタキサンチンローション 150ml 2,200円

容量は同じですが、DHCの方が1,600円安いです。

クリームだと・・・

  • 富士フイルムアスタリフトクリーム30g 5,000円
  • DHC アスタキサンチンクリーム40g 2,500円

DHCの方が容量は10g多いのにもかかわらず、価格は半額です。

ジェル(ゲル)だと・・・

  • 富士フイルムアスタリフトジェリーアクアリスタ60g 12,000円
  • DHC アスタキサンチンジェル80g 4,500円

DHCの方が容量は20g多いにもかかわらず、価格は7,500円安いです。 驚異の62.5%OFFです。

ほぼすべての商品で、富士フイルムのアスタリフトよりも、DHCアスタキサンチンシリーズの方が格安のようです。

ここまで安いと、例え富士フイルムのアスタリフトを買いに行っても、DHCのアスタキサンチンシリーズを見てしまうと、こちらを買ってしまいそうです。

たぶん、こういった人は多いでしょうね。

もちろん、DHCはここまで計算しているでしょう。

いや、私が気づかない、もっと多くのことを当然考えているでしょう。

そもそもDHCの戦略そのものが、流行っているものを安価で出すことです。 サプリメントなんかは、全部そうですよね。 今回のアスタキサンチン化粧品でも同じ手法です。

富士フイルムがDHCに差し止め要求をした総合的な理由

現在の状況は、富士フイルムにとって、本当にツラいところだと想像できます。

莫大な広告費を投下して育ててきた市場を、後発であるDHCに安価で奪われる訳ですから。

しかも、健康食品業界でのDHCのやり方をみると、この状況を放置しておくわけにはいきません。

もともとDHCは、もの作りの企業ではありません。

大学翻訳センター(Daigaku Honyaku Center)の略でDHCという社名で、翻訳・通訳をメイン事業にしており、サプリメントや化粧品とは畑違いの業種でした。

だから、商品の差別化や付加価値より、企業の戦略や売り上げに重きを置いている社風なのかもしれません。

そのせいか、広告の打ち方も、なかなかです。

2年前の2012年にはDHCは新聞の全面広告で、『いわくつき調査』を無断で使用して、「『利用している(利用したい)機能性食品メーカー』第1位に選ばれました」という実名入りの健康食品メーカーランキングを掲載しました。(参考:http://www.tsuhanshinbun.com/archive/2012/08/dhc.html

当時、かなりの物議を呼びましたので、記憶に残っている方もいらっしゃることと思います。

そう言えば、以前はテレビCMでも『〇〇で1位』を連呼していましたね。

最近はあまり見かけませんので、効果が無くなってきたのかもしれません。

まぁ、以前に、『あなたは信じる?信じない?世の中にあふれる化粧品口コミランキングサイト』で書いた通り、このようなランキングの順位なんて、いくらでも操作できるため、価値はありません。

ただ、日本人は権威に弱い方も多いので、無条件でランキング1位の商品を買いたい衝動に駆られる方が一定数います。そこをついた広告な訳です。

で、これらの理由によって、富士フイルムのアスタリフトの市場がDHCのアスタキサンチンシリーズにかなり食われてるんじゃないかと思います。

DHCのアスタキサンチンシリーズは、3月に発売されたので、約半年が経過しています。この間に、富士フイルムにとって、シャレにならない状況に陥ったのだと思います。

そこで、DHC側に少しでも打撃を与えるために、今回の差し止め要求を行ったと勝手に邪推してみました。

この推論が当たってるかどうかは、今後の両社の展開を見て行けば分かります。どうなるか、見ものですね。

それにしても、大企業の戦いってすごいですね・・・。

うちのような小企業は、コツコツ頑張るだけです。

投稿日:2014.09.25

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アースケア代表・化粧品開発者

井上龍弥

2000年アースケアを創業。保湿に特化したアクシリオの開発・販売を手掛ける。起業家ならではの人生観や自身の超がつく敏感肌・乾燥肌の経験談が愛用者に人気。

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