<目次>
- 「オイル美容はいいの?」と聞かれて
- オイル美容は2013年1月にブームになった?
- オイル美容の概念
- オイル美容法を取り入れるには?
- オイル美容が話題になったその背景
- オイル美容の本当の効果
- 細胞間脂質はセラミドという油溶性分でできているので、オイルとなじみがいい?
- オイルは栄養素が豊富だから、肌にもいい?
- 結局、オイル美容はいいのでしょうか?
・その【1】2013年から引き継がれるオイル美容の概念
・その【2】新たな流れ、2018年女性誌や情報サイトに書かれているオイル美容の概念
「オイル美容はいいの?」と聞かれて
最近、「オイル美容っていいんですか?」という趣旨の質問を立て続けにされました。
私は、『オイル美容』と聞いて、「美容(スキンケア)にオイルを使用すること」と理解しました。
美容にオイル(油分)を使うのは一般的で、メイク落としや乳液、保湿クリーム、美容液などにも配合されていますから。
だから、「オイル美容はいいですか?」という質問に「はい、オイル(油分)はスキンケアに必須なので、いいですよ」と答えました。
すると、相手の方は釈然としません。
詳しく聞くと、スキンケアにオイルを使うどうこうではなく、「『オイル美容』がそれまでのスキンケアに比べていいのか?」という質問でした。
私は、『オイル美容』の概念を恥ずかしながら知らなかったので、「オイル美容って何ですか?普通のスキンケアと何が違うのですか?」と聞きました。
相手の方は、「オイルを使ったスキンケアのことです」とのこと。
この答えを聞いて、「私の解釈で正しいのでは?」と感じたのですが、どうやら相手の期待に応えることができませんでした。
私自身、オイル美容という単語は目にしていたのですが、オイルを美容に使うのは、私が化粧品業界に入った20年以上前から常識中の常識だったので、オイル美容と聞いても普通のスキンケアと認識してしまいました。
でも、どうやら違うようです。
そこで、調べてみました。
オイル美容は2013年1月にブームになった?
まず、「”オイル美容”という言葉が、いつ頃から使われ始めたのか?」を、googleトレンドで調べてみました。
Googleトレンドとは、 Google社が提供するキーワードやトピックの検索回数のトレンドをチェックできる、便利なツールのことです。どんなキーワードがどれぐらい検索されているのか、見るのに便利です。
2012年8月に35ポイントまで上がったものの下がり、急に2013年1月に100ポイントまでアップします。
一応、『美容オイル』でも調べてみました。
パッと見た感じでは、『オイル美容』と同じような曲線を描いています。
念のために、『オイル美容』と『美容オイル』の検索数を重ねてみました。
すごいシンクロ率です。
このことから、どうやら『オイル美容』と『美容オイル』は同じ意味で用いられているとわかります。
青色がオイル美容で、赤色が美容オイルの検索数です
グラフを見てもわかる通り、2013年1月にすさまじい伸びを示しています。
『オイル美容』も『美容オイル』も、双方とても伸びています。
前月の2012年12月時点と比較すると、、、
- 『オイル美容』が17ポイントから、100ポイントと5.9倍アップ
- 『美容オイル』でも17ポイントから、96ポイントの5.6倍アップ
これまたぴったり同じです
そこで、この時期の雑誌や情報サイトを調べてみると、『オイル美容』の記事がいくつか見つかりました。
オーガニック、ロハス系の雑誌やサイトに掲載されていました。
その内容は、
- スキンケアはオイル一本だけでOK
- 鉱物油はダメ
- 100%植物油のピュアオイルがよい
- アルガンオイルは最高にいい
- やたら、見出しに「オイル美容、ついにブーム到来!」と書かれている
こんなものでした。
ここで記憶がよみがえりました。
そういえば、シアバターとかアルガンオイルのブームってこの頃でしたね。
確かに、「アルガンオイルを使っておけば大丈夫」みたいな宣伝や記事をよく目にしました。
美肌やエイジングケアの効果が期待できることから、別名「魔法のオイル」と言われています。美肌やエイジングケアに良いとされる理由は、抗酸化作用が高い「ビタミンE」がオリーブオイルの約3〜4倍も含まれているから!
また、体内ではつくることができない、体の細胞膜やホルモンをつくるために必要な「必須脂肪酸」も、他のオイルより数倍多く含まれているのです。そんな特徴のあるアルガンオイルは
・乾燥や日焼けが原因で発生する活性酸素(メラニンの形成を促進する物質)の除去
・肌の新陳代謝を活発にする・油分と水分のバランスを整え、潤いを与える
など、エイジングケアにつながる効果が期待できると言われています。
まず着目したいのが必須脂肪酸。肌の潤いに効果がある必須脂肪酸ですが、必須脂肪酸の含有量が30~50%と、オリーブオイルと比べると何と10倍以上を含んでいます。またビタミンEやカロテン、サポニンも豊富に含んでいるので、みずみずしく柔らかな肌にしてくれるので、アンチエイジングオイルとして高い効果を発揮してくれます。
(中略)
あらゆる効果が期待出来る新たな万能アイテム、アルガンオイル。早速スキンケアアイテムの一つに迎え入れてみてはいかがでしょうか。
べた褒めですね。
グラフの伸びを見ると、私の想像ですが、2012年夏頃から雑誌や情報サイトなどにオイル美容の記事広告を出しておいて、その後、2013年1月に満を持して、いくつかのゴールデン情報番組に特集されたのでしょう。
2013年当時は、テレビの特集と見せかけて、特定の商品を誉めまくる番組がいくつもありました。
もちろん、裏では広告費を払い、番組を利用していくつものブームが作られていたのです。
その後、ブームを金の力で作る露骨なスキームがバレて批判を浴び、このような番組はすべて打ち切りになりましたが。
ただ、オイル美容の場合は、残念ながらブームには至らなかったようです。
ピーク時と翌月の2013年2月と比較すると、
- オイル美容で、100ポイントから19ポイントへ81%ダウン
- 美容オイルで、96ポイントから20ポイントへ80%ダウン
です。
いくら情報番組や雑誌で煽ったとしても、オイルを使うのは、スキンケアにとって普通のことなのでブームになるほどの新規性がなかったのでしょう。
また、オイルだけでは保湿ができないことも要因の一つだと思います。
肌の中に適切な水分が保持された状態のことを、『保湿』と言います。
つまり、『良質な油分によって適切な水分の蒸発を防ぎ、その水分が肌に保持されている状態』のことですから、オイルだけでは適切な保湿には至りませんので、注意が必要です。
でも、グラフを見ると徐々に伸びてきています。
オイル美容では、2016年11月には、ピーク時の半分を超えて53ポイントを達成。
その後は、少し伸び悩んでいるものの、2013年のように一過性のものではなくなっています。
この流れに乗って、化粧品メーカーはオイル美容という分野に適したアイテムを作って仕掛けています。
ただ、最近は、オイル美容という概念が2つに分かれているようです。
オイル美容の概念
2013年のピークが過ぎ、その半分となったのは2016年の11月。
昔と違いこの当時はさすがにテレビ番組を使うことはできないので、週刊誌の記事広告を使って展開しています。
さすがは、週刊誌。
薬機法違反もなんのその。
何でも書き放題です。
私が読んだ中で、オイル美容について一番詳しかった記事をご紹介します。
59歳の美容家を名乗る方へのインタビュー形式で記事は書かれています。
簡単にまとめると・・・
- 還暦を迎えてももちもちでシミのない肌になる
- 首に縦じわもできない
- オイルを塗れば日焼け止めも必要なし
- リンスもいらない
- 乾燥肌に水分はいらない、必要なのは油分のみ
- オイルを塗ることで細胞間脂質を伝って細胞の隅々にまで水分が浸透する
- トイレで手洗いしてもオイル一滴たらせば、シルクの手袋ができる
- 美容の目利きたちが最終的にたどり着くのがオイル
- 美容雑誌は、夏でも”オイル祭り”状態
- 美容雑誌の編集長も登場して、「オイル美容は今、確実にブームが来てます」と力説
- 大手外資系や国産化粧品ブランドからオイル製品が続々登場しているから、「オイルで美肌づくりをめざしませんか」と締めくくり
引用元:“オイル美容”ブームの兆し 美の達人たち「絶賛」の魅力とは? 週刊朝日 2017年9月29日号
とのことです。
シミもできない、シワもできない、日焼けもしない、リンス効果もあり、、、もはやなんでもありですね。
どうやら現在、世の中はオイル美容ブームで”オイル祭り”だそうです。
私が住んでいる大阪では、オイル祭りは開催されていませんが。
ちなみに、この記事にも『オイル美容ブームの兆し!』と書かれていました。
2013年と全く同じ見出しです。
書いた人が同じなのか、歴史は繰り返すのか…
2013年の流れではなんでもありだったオイル美容でしたが、表現が少し落ち着いてきました。
現在、女性誌や情報サイトで説明されているオイル美容の方法やその効果は多岐に渡りますが、よく書かれている内容は、、、
- 鉱物油より天然系のオイル(植物とは限らない、動物でも可)
- 細胞間脂質はセラミドという油溶性分でできているので、オイルとなじみがいい
- 浸透したオイルは水分と結びついて、蒸発を防ぐ
- 天然系のオイルには必須脂肪酸やビタミンが含まれているので肌への栄養補給になる
- オイルには皮膚なんか作用があるので、その後に付ける化粧品の浸透を助けるブースター効果がある
- 精油は分子量が小さいので、真皮の毛細血管に取り込まれ、全身へと働きかける
- オイルはさまざまなパワーが秘められており、肌にエネルギーを与える
このような感じです。
このように色々と効果があると言われるオイル美容ですが、謳われる効果は2つに集約されます。
謳われる効果【1】保湿効果
オイルは肌に浸透しやすく、潤いを与え、バリア機能を高める。
オイル美容は、保湿効果が高い。
とのことです。
前述したとおり、保湿と言っても、オイルは水分蒸発を防ぐ保護の役割しかできませんので、オイルとは別に、化粧水などの水分補給は必要でしょうね。
謳われる効果【2】ブースター効果
次に使う化粧品が浸透しやすくなるブースター効果が高い。
とのことです。
オイル美容方法としては、洗顔後、スキンケアの一番最初にオイルを塗ることを推奨しています。
ブースター効果の根拠は、「紫外線などによって皮膚は硬く厚くなる。そこに水分や美容液を入れようとしても、なかなか浸透しない。
だから、スキンケアの最初にオイルを使うと肌が柔らかくなって浸透が容易になる。」この浸透が容易になる効果がブースター効果だそうです。
さらに、化粧品が浸透することでターンオーバーがスムーズに行われて、肌のごわつきも解消されていくとのこと。
最近、ブースター化粧品とか出てきていますが、それと同じ内容ですね。
ブースター化粧品がオイルに変わっただけです。
皮膚が硬くて厚いと本当に浸透しにくいのでしょうか?
私たちの皮膚の中で、一番硬くて分厚いといえば、足の裏や指の先でしょう。
お風呂に長く入っていたら、ふやけませんか?
私の足の裏や指の先は、ふやけます。
これは、水が浸透している証拠です。
だから、皮膚が硬くて分厚くなっても、浸透しづらくなるだけで、きちんと浸透します。ご安心ください。
それに、洗顔後、オイルを塗ったら、その後の水分をはじいてしまいます。
水と油は、相性が悪いからです。
だから、オイルを塗ったらブースター効果があるという根拠としては弱いですね。
あとは、『美容オイルには本当に『ブースター効果』があるの?』に詳しく書いていますので、「ブースター効果と言われてなんとなく使っていた」という方なんかはぜひお読みください。
オイル美容法を取り入れるには?
とはいえ、ここまで読んで「ぜひ私もオイル美容をやってみたい!」と思われたかもしれません。
その場合、オイル美容の方法は2つあります。
- 今あるスキンケアのどこかで使う方法
単純にひとつアイテムを増やすことで、その恩恵も増えるという考えです。 - 今あるスキンケアのアイテム間に挟み込む方法
洗顔→オイル→化粧水→オイル→乳液→オイルといった具合です。
とにかくオイルを使いまくることで、使えば使うほど効果があるという考えです。
簡単に取り入れることができそうです。
しかし、注意が必要です。
それは、、、
オイル美容が話題になったその背景
今回、2013年から現代のオイル美容を調べてみて思ったのは、オイルを「高いポジションに祭り上げたい」という意図でした。
- シミやシワができないかのようにイメージを与える言葉。
- パワー、エネルギーなどスピリチュアルな言葉。
- 新陳代謝、免疫効果といった薬効を連想させる言葉。
- 細胞間脂質に直接働きかけるというなんちゃって理論。
- そして、それに乗っかってオイル美容関連の化粧品アイテムを販売するメーカー。
本来、化粧品開発に携わっていれば、情報サイトや雑誌広告で語られている内容が間違っていることは気づくはずです。
化粧品の効果・効能は、厚生省が定めた『化粧品の効能の範囲』に記されています。
そこには、エネルギーもパワーも新陳代謝も免疫力も書かれていません。
たぶん、これが『オイル祭り』なんでしょうね。
誰も本当のことなんかどうでもいい。
なんか楽しそうで、すごそうだったらいいのでしょう。
そして、その祭りに便乗して、金儲けしている人がいるだけです。
今回、オイル美容を調べるうえでも、アフィリエイトのランキングサイトが無数にありました。
適当な説明文を作り、肌トラブルで悩んでいる人が希望を見出しそうな言葉を並べ、ランキングに誘導しているサイトです。
正しい情報はほぼ載っていません。
お互いにコピペしあってるんでしょうか、サイトは違うのによく似た文章が並んでいました。
誰が書いているのもよくわかりません。
たぶん、このようにお金儲けをしたい人たちが、祭りを催しているのでしょう。
もちろん、本気でオイルを使った美容法の確立を目指している方もおられました。
残念ながら今の世の中、正しい情報が上位表示されず、目につく上位にあがるのはアフィリエイトサイトが大半という現状…インターネット検索の大きな問題です。
もしアフィリエイトサイトやランキングサイト、口コミサイトの実態をご存じないのであれば、最近の事情を書いた『セラミドの実験結果から見る『セラミド化粧品』ランキング』や『もはやレビューは、信頼できない』をお勧めします。
もし、そもそもアフィリエイト自体をご存じないのであれば、この記事からお読みいただくことがお勧めです→『あなたは信じる?信じない?世の中にあふれる化粧品口コミランキングサイト!』。ランキングサイトの実態がわかるので、面白いですよ。
オイル美容の本当の効果
オイル美容は、オイル(油溶性成分)を使った美容法です。
だから、オイル(油溶性成分)の効果を理解することが、一番、『オイル美容』の真実に繋がります。
オイルの効果は、、、
- 肌を柔らかくする
- バリア(水分の蒸散)機能を高める
- 外界の刺激から保護をする
おおむね、この3点です。
ですから、オイル美容の効果も、この3点だと言えるでしょう。
これ以上でも、これ以下でもありません。
ですから、冒頭で紹介した記事や情報サイトで謳われるような効果をオイル美容に期待するのは、大きな間違いだと言えます。
細胞間脂質はセラミドという油溶性分でできているので、オイルとなじみがいい?
「細胞間脂質はセラミドという油溶性分でできているので、オイルとなじみがいい」という話もありますが、オイルが細胞間脂質に働きかけることはありません。
興味がある方はぜひ、富士フィルムがセラミドをナノ化した実験を読み込んでください。
『肌への浸透性とバリア機能の回復力を高める 「 ヒト型ナノセラミド」を開発』というリリースです。
これを読めば、いかに、油分であるセラミドを細胞間脂質に働きかけさせることが大変かがわかります。
セラミドをナノ化したことで、通常のセラミドより飛躍的に浸透率を上げることに成功したものの、いまだ実験レベルで実用化には至っていません。
それなのに、ただ単なるオイルを肌に塗っただけで、細胞間脂質に働きかけるなんてありえないことです。
オイルは栄養素が豊富だから、肌にもいい?
オイル美容人気の背景には、「オイルには食品としての栄養素が豊富だから、それが人体へ良い効果を与える」という考え方があります。
しかし、『3つのオイル効果』で紹介した通り、オイルが浸透するのは角質層までです。
「毛穴から浸透する」という説も聞きますが、毛穴には皮脂が分泌されているのでそれがフタの役割を果たすため、そこからオイルが中へ入ることはできません。
だから、肌から栄養素が吸収されることもありません。
万が一、浸透できたとしても、肌にとっては異物ですから、血液にのって毒素として排出されます。
ですから、オイルの持つ栄養素が人体に作用することはありません。
オイルに含まれる栄養素は肌にとっては不純物扱いですから、逆に、アレルギー反応などの肌トラブルを起こす可能性があります。
それに、人間が自然に分泌する『皮脂』も肌の上で活躍します。
もし、油溶性成分が体内で活躍するはずなら、皮脂が体内にも分泌されるはずです。
油溶性成分は、肌の上で活躍することが我々の体にとって自然な生理現象なのです。
結局、オイル美容はいいのでしょうか?
「オイル美容っていいんですか?」という趣旨の質問を立て続けにされたことが、この話をするきっかけとなりました。
繰り返しますが、オイル美容の効果はオイルの効果と同義で、おおむねこの3点です。
- 肌を柔らかくする
- バリア(水分の蒸散)機能を高める
- 外界の刺激から保護をする
もちろん、これらはオイルの特性なので、オイルを含んだ化粧品でも同じ効果が期待できます。
乳液、美容液、保湿クリームなど、天然系のピュアオイルでなくても問題ありません。
ですから、質問に対しては、「オイル美容というのは、何も特別なものではなく、オイルが含まれた化粧品を使った普通のスキンケアと大差ない美容法だから、オイルを使うことが、特別、肌に良くも悪くもないです」とお答えするでしょう。
私は自他共に認めるケチ(よく言えば質実剛健)なので、不要なものは使いたくありません。
だから、自分が作った化粧品も、化粧水・乳液・美容液不要の、1つでスキンケアが完了するオールインゲルになりました。
でもこれは考え方の違いですから、自分の肌に使ってみて効果を感じれば、もちろんオイル美容もいいと思います。
乳液、美容液も同様ですね。
気を付けるべきなのは、たとえば、オイル美容は100%オイルを使うのですから、その後の水分補給ができない・落とす際に洗浄力の強い洗顔料が必要など、スキンケアに十分な注意が必要です。
誤った情報を信じすぎないよう、取捨選択は必要だと感じます。
水分と油分をバランスよく肌に与えるスキンケアの方法をお知りになりたい方は、続けて『間違った保湿から、正しい保湿へ』をお読みください。
取捨選択のヒントになるはずです。
投稿日:2018.11.23